「お前さん、良く食ったなぁ」

「美味しかったんだもん♪」

「…太るぞ?」

う゛…あ、明日から練習増やす、もん」

「ははっ、そりゃいい考えだ」

日が落ちて暗くなった公園を抜ければ、もうすぐ金やんとは別れなきゃいけない。
偶然会えて、ご飯を一緒に食べられて幸せだったけど…やっぱ寂しいな。

?」

「あ、な、なんでもない!」

先に階段を下りていた金やんが立ち止まって振り返った姿を見て、慌てて後を追いかける。

「あー、急がんでいい、急がんで。ゆっくり来い」

そう言われても、少しでも一緒にいたくて…そばにいたくて。
階段を下り出した瞬間…

「わっ!!」



――― 足を踏み外した















〜…」

「ご、ごめんなさい…」

前にいた金やんが受け止めてくれた事により、階段を滑り落ちるという事態からは難を逃れた。

「だから言ったろ、ゆっくり来いって」

「…はい」

「ほれ、ちゃんと立て」

「はーい…」

慣れた道だからって安心してたけど、今度からもう少し気をつけよう。
そう心に誓ってしっかり立つ。

「ありがとう、金やん」

「今度から気をつけろよ。んじゃ行くか」

そう言って歩き出そうとした金やんの視線の位置に気付いて、歩き出そうとした金やんの襟を掴む。

「ぐぇ!」

「あ、ごめん!」

「げほっ…お前さん、そんなに俺の息の根を止めたいのか?」

「違う違う!!」

振り向いて喉を押さえてむせている金やんに申し訳なく思いながらも、あたしの視線は目の前の瞳に釘付け状態。
いつもは思い切り首を上に向けるか、金やんが腰を屈めないと目を合わせたり出来ないのに…今は、それがラクに出来る。

?」

じぃ〜っと穴が開きそうな勢いで見つめている視線に気付いた金やんの表情が変わる。

「…どうした?ん?」



こんな表情、学校じゃ見れない。
見れるのは…二人きりの、今だけ。
そう思ったら急に大好きって気持ちがこみ上げてきて…


そっと目を閉じて、素早く金やんにキスをした。



「えへへ…」

「えへへ…って、お前さん…」

「嫌?」

「嫌とかそういう問題じゃなくてだな…」

「うん?」

「ったく、若いもんには敵わん」

ため息と同時に、ぐいっと肩を抱き寄せられ、いつもと違う体勢に戸惑っていると、更に戸惑うひと言が耳元に落とされた。

「…もう一回、してくれ」
「ふぇっ!?」

驚いた声をあげると、僅かに緩んだ腕の隙間から大人の笑みを浮かべた金やんがニヤリと笑ってるのが見えた。

「…し、しろと言われて出来るもんでは」

「今したばっかだから出来るだろ」

「いや、それはあの…」

「ん?」

しどろもどろ経緯を説明するのもおかしいけれど、説明しないと逃げられそうにない。

「い、いつもは身長差があるじゃない?」

「あぁ」

「けど、ほら、今は階段があって…」

「…なるほど、な」

だから目の前に金やんの顔があったのが珍しくて、勢いでしました!と頭を下げるような勢いで言ったら、金やんが楽しそうに笑いながら階段をもう一段下りた。

「金やん?」

「おっと、お前さんはそのまま」

「ほぇ?」

階段を二段下りた金やんは、なんだかいつもと少し違って見える。



あぁ…金やんを見下ろすって、こんな感じなんだ。



「…お前さん、いつもこんな風に見てるんだな」

「え?」

「いつも…こうして見上げてるだろ。俺を」

同じ事を考えている、というのが嬉しくて、笑顔で大きく頷く。

「うん!」

「…こりゃ案外首が疲れるな」

「苦労がわかったか!」

「あぁ、わかったわかった。けど、俺の苦労もわかるだろ?」

「ほぇ?」

「こっちに顔、近づけてみろよ」

言われたとおり、二段下にいる金やんに顔を近づけようと腰を折る。

「…う、うわぁ」

「どうだ、わかったか」

「わ、わかった…」

「年寄りには案外重労働なんだぞ〜?」

金やん冗談っぽく笑ってるけど、これ確かに大変かも。
中途半端な体勢で止まるって、結構辛い。

「え、えと、以後考慮します?」

「おう、そうしてくれ」

そのまま前のめりに階段を一段下りそうになったけど、金やんの手が支えてくれてその場に留まることが出来た。
ほっとする間もなく、階段に片足かけた金やんの顔が近づいてきて…再び唇が重なった。





暫くそのままの状態が続き、呼吸困難で苦しくなって来た頃に、ようやく唇が外され一気に肺に空気が入ってくる。

「…っと、お前さんからって言ったのに、俺からしちまったな」

「んじゃあツケにしといて〜」

「お、言うようになったなぁ〜、やっぱ教育の賜物か?」

しっかり抱きしめられた体勢のまま、頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
でも、それに抗議のする事も、その手を止める力も今はない。

「違うもん!自己学習の賜物だもん!」

「勉強熱心な生徒で、助かるぜ」

金やんの背に手を回しかけたところに、遠くから人が近づく気配を感じた金やんが先に腕を緩めて先に階段を下り始めた。



ちぇっ…もう少し、ぎゅってしてて欲しかったなぁ…



そんな事を考えながら、階段を下りかけたあたしの前に手が差し出される。



「…うん!」





身長差があっても、変わらないものもある。

それは互いを想う気持ち
大好きって、気持ち!





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妄想が、むぎゅっと詰まった話となりました。
この話のために、家のそばにある階段の高さを測りに行ったお馬鹿さんは私です(笑)
大事じゃないですか!やっぱ、こういうのは!(笑)
階段2段も下りないと身長差が逆転しないってのは悔しい気がしますが…ちょっといいかなぁなんて。
…ってか、金やん身長高すぎだよ、183センチって一体何を食べたらそうなるのさ!?
あぁ、牛乳か!きっと牛乳だね!!
成長期の頃、きっと猫と一緒に牛乳を飲んでたからにょきにょき伸びたんだ、きっとそうだ!(勝手に決めるな)
あ、そうそう、ちなみにこのデートの帰り道は学校から離れた場所ってことで宜しくお願いします。
間違っても、こー駅前とか、森林公園とか児童公園とかじゃありませんので、あしからず。
そんなとこで、こんなことするほど、常識がない人ではありません。
…誰です、生徒に手を出してる時点で常識ないじゃんとかツッコミ入れてる人は。
いえ、まぁ、正しいんですけど…それを言ったら夢小説じゃなくなるので、そこはスルーで!!